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『FACTFULNESS』を読みました - 世界の見え方が変わり、自分の視野の狭さに気付ける名著

ハンス・ロスリング著 『FACTFULNESS』を読了したので感想をメモ。 www.nikkeibp.co.jp

購入する際に本の帯から知ったことですが、本書は昨年2019年にベストセラー第一位を記録し、今年2020年のビジネス本大賞も獲得する勢いの今売れに売れている人気作のようです。*1

私が読もうとしたキッカケは今回もTwitterのTLで、「今すぐ読むべき」と紹介されていたのが印象に残っており、TODOリストに積んでおいたことを契機に読み始めました。

読後直後の率直な感想

はじめに、読み終えて興奮が冷めないうちの気持ちを書き殴っておきます。*2

本書は自分の価値観や思い込みの愚かさを教えてくれる本でした。その文脈では以前読んだ『思考のトラップ』も素晴らしい本でしたが、この『FACTFULNESS』も実に素晴らしい本でした。『思考のトラップ』は人間が如何に思い込みや本能によって勘違いといえるような思考をしてしまうかをいくつものパターンに分類して紹介する内容でしたが、本書は世界に対する自分の勘違いを正そうと働きかけてくれました。

著書のハンス氏のユニークで素晴らしく、時には切実な経験談と共に、信憑性の高い数値を元にした具体的な事実の数々が語られ、目から鱗が次々に剥がれ落ちていきます。

冒頭のクイズについては裏読みしてしまい、結果的にチンパンジーよりも高い数値となってしまいましたが、率直に答えた場合は確かにそれよりも少ない手応えだったでしょう。

各章の最後に「FACTFULNESSとは...」というまとめがあり、人間の本能がつい導いてしまう間違った考えや認識の仕方に対してどのように抵抗するかのノウハウが提示されていきます。

そんな中で私なりに"FUCTFULNESS"を解釈し、簡単に表現するのであれば 「人間の本能は世界を曲がって見てしまうし、情報を提供する多くのメディアは大袈裟で珍しい内容を多く広めがちである。そんな世界の中で大切なのは情報を鵜呑みにしない冷静さと、常に自分は間違っているかもしれないという謙虚さ、そしてその間違いを少しでも減らすために学び続けることである」となり、ちょっと長いのでさらに簡略化して「世界、知らないこといっぱいなので謙虚に学んで行こうぜ」でしょうか。

本書では”世界の知らないこと”をいくつもの具体例で提示して謙虚である必要を読者に体感させ、信頼のおける情報ソースのいくつかを示すことで"(比較的に)正しい情報の取得方法"を伝え、"ハンス氏自身の過去の勘違いや誤り"をストーリーとして描くことで学んで意識と知識をアップデートしていく重要さを説いてくれました。

読み終わった後に視座がグッと上がるような、得難い体感を与えてくれた素晴らしい本でしたし、読み終わる頃には著者のファンの1人になっているでしょう。*3

FUCTFULNESSのための10の本能を知る

本書は以下の"10の本能による思い込み"を訂正する内容でもあります。

  1. 分断本能
  2. ネガティブ本能
  3. 直線本能
  4. 恐怖本能
  5. 過大視本能
  6. パターン化本能
  7. 宿命本能
  8. 単純化本能
  9. 犯人探し本能
  10. 焦り本能

以降は各本能について自分なりのコメントをしながら、記憶に焼き付けたいと思います。

その後に各本能のまとめとして"ファクトフルネス"が紹介されているので、それを正しい文献として抜粋します。 意図的に対策部分のみを抜粋をしていて、本能に対するファクトフルネスを忘れた時は読み返す必要性を残しました。

分断本能

世界をはじめ、様々なものをシンプルに分断してしまう本能。 「持つものと持たざる者」とか。

世の中はそれほどシンプルではないし、様々な段階があり環境も状況も常に変化し続けている。

平均は指標の一つではあるけれど誤解を招きやすく、中央値やグラフのヒストグラフの重なり具合など多角的な見方が必要。

ドングリの背比べと見てしまうことに注意する。自分と異なる階層の差というのは、理解しにくいことを意識する。それは上位層でも下位層でも同じ。

分断本能におけるファクトフルネスの抜粋

分断本能を抑えるには、大半の人がどこにいるか探すこと。

  • "平均の比較"に注意しよう
  • "極端な数字の比較に注意しよう"
  • "上からの景色"であることを思い出そう

ネガティブ本能

世界は常に悪くなっている。貧困や格差は広がり、戦争は拡大し、ともすれば核戦争で今にも終わるかもしれないとネガティブに考えてしまうこと。

この本能に対しては感覚を信じずに、事実や数値をみることが大事。 わかりやすいところでは書内で紹介されている Gapminderの世界の国別レベルのバブルチャートの推移をみるのがよい。1800年から2017年にかけて人類がどれだけ豊かになってきているのかが視覚的にわかる。

ネガティブ本能におけるファクトフルネスの抜粋

ネガティブ本能を抑えるには、「悪いニュースの方が広まりやすい」ことに気づくこと

  • "悪い"と"良くなっている"は両立する
  • 良い出来事はニュースになりにくい
  • ゆっくりとした進歩はニュースになりにくい
  • 悪いニュースが増えても、悪いできことが増えたとは限らない
  • 美化された過去に気をつけよう

直線本能

直線的なグラフをみると、その先も同じ角度のまま伸び続けて(または下がり続けて)いくと考えてしまう本能のこと。

これに対しては紹介されている"子供の身長のグラフ"がわかりやすい反例で、S字カーブやランダムに見えるようなグラフの方が世の中には多いことを理解しておく。

直線本能におけるファクトフルネスの抜粋

直線本能を抑えるには、グラフには様々な形があることを知っておくこと。

  • なんでもかんでも、直線のグラフを当てはめないようにしよう

恐怖本能

知らない物を怖いと感じてしまう本能。

根拠のない恐怖を感じるのなら、それが発生する確率や、直近の発生件数などの具体的な数字を見て判断する。

恐怖本能におけるファクトフルネスの抜粋

恐怖本能を抑えるには、リスクを正しく計算すること。

  • 世界は恐ろしいと思う前に、現実を見よう
  • リスクは、"危険度"と"頻度"、言い換えると"質"と"量"の掛け算で決まる
  • 行動する前に落ち着こう

過大視本能

全体で見れば僅かな事象に対し、必要以上に高い発生率や広範囲で怒っていると錯覚してしまう。 目の前で起きていることを大多数と考えてしまい、本来はより広範囲で起きていることから目が逸れてしまうことがある。

割り算をして一人当たりの比率をとらえたり、"20・80ルール"を適用して何が全体の80%を占めるものなのかを考える。

過大視本能におけるファクトフルネスの抜粋

過大視本能を抑えるには、比較したり、割り算をしたりするといい。

  • 比較しよう
  • 80・20ルールを使おう
  • 割り算をしよう

パターン化本能

少ない事例を見ただけで、全体がそのようになっていると誤解してしまう。

対策としては分類を常に見直すことで、同じグループ内、異なるグループ内を比較していく。

パターン化本能におけるファクトフルネスの抜粋

パターン化本能を抑えるには、分類を疑うといい。

  • 同じ集団の中にある違いを探そう
  • 違う集団の間の共通項を探そう
  • 違う集団の間の違いも探そう
  • "過半数"に気をつけよう
  • 強烈なイメージに注意しよう
  • 自分以外はアホだと決めつけないようにしよう

宿命本能

物事は始まりからそうなるようにできていると思い込んでしまう。

あらゆることは変化し続けているので、その知識をアップデートし続けていく必要がある。

宿命本能におけるファクトフルネスの抜粋

宿命本能を抑えるには、ゆっくりとした変化でも、変わっていると言うことを意識するといい。

  • 小さな進歩を追いかけよう
  • 知識をアプデートしよう
  • おじいさんやおばあさんに話を聞こう
  • 文化が変わった例を集めよう

単純化本能

物事を理解するためにシンプルな捉え方をしてしまう。

多角的な見方が必要だし、そもそも自分が簡単に見通せるほど世の中はシンプルじゃないと知っておく。

単純化本能におけるファクトフルネスの抜粋

単純化本能を抑えるには、なんでもトンカチで叩くのではなく、さまざまな道具の入った工具箱を準備した方がいい。

  • 自分の考え方を検証しよう
  • 知ったかぶりはやめよう
  • めったやたらとトンカチを振り回すのはやめよう
  • 数字は大切だが、数字だけに頼ってはいけない
  • 単純なものの見方と単純な答えには警戒しよう

犯人探し本能

何かの発生原因を特定の個人や団体などに押し付けてしまう。

物事には様々な理由があるので、犯人やヒーローを探す前に原因に注目する。

犯人探し本能におけるファクトフルネスの抜粋

犯人探し本能を抑えるには、誰かに責任を求める癖を断ち切るといい。

  • 犯人ではなく、原因を探そう
  • ヒーローではなく、社会を機能させている仕組みに目を向けよう

焦り本能

課題を持った時に、すぐに行動を起こしたくなる。

スピードは確かに大事だが、それだけでは稚拙な結果を招くことも多い。 世の中の瞬発的な英断の多くは結果論であると認識しておく。 地道な一歩を積み重ねる方が重要で良い結果を産む。

焦り本能におけるファクトフルネスの抜粋

焦り本能を抑えるには、小さな一歩を重ねるといい。

  • 深呼吸しよう
  • データにこだわろう
  • 占い師にきをつけよう
  • 過激な対策に注意しよう

まとめ

ここまで書きながら、都度簡単に本書を振り返ってきました。 大体の感想は冒頭に書いた通りですが、一晩たって落ち着いた今気になっているいくつかは以下です。

  • Covid-19 で世界は新しい局面を迎えているが、ハンス・ロスリング氏が存命だったらどのような行動を取ったのか
  • ロスリング家が設立した Gapminder は今なにをやっているのか
  • ハンス・ロスリング氏を産んだスウェーデンの現状

一つ目は故人であるため想像するしかありませんが、残りの二つは確認することができます。 個人的な希望としては、世界の変革時である今でこそ、それぞれの団体や国が良い動きがされていることを望みますが、これも"犯人探し本能"の一つなのかもしれませんね。 ここでは Gapminder と スウェーデンについて軽く調べた結果を記載しておきます。

ロスリング家が設立した Gapminder は今なにをやっているのか

公式サイトを軽く見ただけでは、Covid-19に対して特別な動きが無いように見えて残念な気持ちになりましたが、Twitterを通していくつもの情報発信がされていることと、サイトにも専用ページ Corona が存在していることがわかりました。

Corona特設ページに

Our latest updates about the pandemic are posted on twitter, facebook, linkedin and instagram.

とあるように、Covid-19に対してはSNSを活用した情報発信を主軸としているようで、多くの人に情報を届ける観点で正しい方法だと感じました。

例えば以下のような図で死亡率の勘違いを啓蒙していたり、

https://www.gapminder.org/wp-content/uploads/beware-fatality-rates-1024x1024.jpg

Covid-19に関する動画連載を行っていて、正しい情報の受け取り方を発信していました。これは本書の読者としてGapminderに期待していた動きだと思えましたし、素晴らしいと感じました。

いくつかの動画を拝見したところ、オーラ・ロスリング氏がスウェーデンのコロナによる死者数などをわかりやすいグラフを提示しながら数字の解析をしており、国別の比較や死者数の推移などを予想しています。これ自体は良い試みですが、ページ内の最新動画が以下であり、これ以降の更新がないことから "直線本能" で解説したまま投げっぱなしになっているように見えるのが少し残念です。

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Corona #4 — When are Corona-deaths good news? from Gapminder

ハンス・ロスリング氏を産んだスウェーデンの現状

Covid-19感染者の情報は、Googleに "Covid-19" と打つだけで見やすいグラフツールにアクセスができます。情報にアクセスしやすい素晴らしい時代だと感謝しつつ、スウェーデンの状態を見ています。

死者数に着目すると、7月以降から押さえ込みに成功しているように見えます。

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スウェーデン、死者数

一方で新規の感染者数は過去最大に達していて、第二のパンデミック状態であるように見えています。

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スウェーデン、感染者数

比較として世界の死者数です。時折跳ねては下がりを繰り返しつつ4,000-6,000を推移しています。

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世界、死者数

世界の新規の感染者は右肩上がりで、"直線本能"や"恐怖本能"によって大変脅威を感じる数字に見えます。

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世界、新規感染者数

振り返って日本はどうでしょうか。

4月の跳ね上がり以降、押さえ込みに成功しているように見えます。ただし直近の数日ではスウェーデンと比べて死者数が多く、"過大視本能"によって日本の方がだめなように見えてしまいます。

f:id:morihaya:20201103175716p:plain
日本、死者数

ただ、一人当たりの人口比率で考えれば日本が10倍であることを考えると、単純に多いと判断してはいけないこともわかります。

  • スウェーデン: 1023万
  • 日本: 1.265億

そして日本の新規感染者数は、8月から9月にかけて押さえ込めたように見えますが、緩やかな上昇の気配があります。"直線本能"があることを頭に起きつつも、最悪のケースとしては4月と8月に発生したピーク以上の広がりが起き始めている可能性もあるかもしれません。

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日本、新規感染者

と、ここまではただグラフを並べて適当な感想を言っているだけで、正しく分析をするなら各国が打ち出した政策をはじめとした多くの要素を可能な限り調べ上げてグラフにプロットし、私が名前すら知らない予測のための関数などに数字を投げ込むのでしょうが、それを行う知識も時間も今はないのでここまでにします。


最後に、これまで私はCovid-19に対して深い感情はなく、近親者から遠縁まで感染者はおらず、仕事がリモートワークができるようになったくらいの影響を受けていただけでした。それが本書『FACTFULNESS』を読んだことで世界に対して少し目が向き、著者の母国スウェーデンのグラフまでアクセスしてみるモチベーションが生まれたほどに、本書の持つ力は大きかったのだと感じています。

Covid-19が世界を席巻する今、とても読む価値の高い本であると思いますので、未読の方には広くお勧めしたいです。

*1:ここまで売れていると普段の性格では手を出さないのですが、知らなかったので良かった

*2:このブログは複数日に跨って書かれています

*3:私がそうだったように