エリヤフ・ゴールドラット著 『ザ・ゴール』を読みました。お勧めビジネス書の上位にあり、かつ図書館にもあったので気楽な気持ちで借りていたのですが、返却前日に諦めつつ最初の数ページだけ読もうと思ったところ、5時間程度を一気に読み切ってしまう面白さがある本でした。
最初にまとめ
この本のポイントを自分なりに挙げるなら "ボトルネックを発見して全体を最適化することの大事さ" です。
物語の舞台はアメリカの地方の工場で、顧客オーダーに対して生産が追いついておらず、しかし従業員も機械もほぼフル稼働+レイオフなどでコスト削減も実施済みの状態から始まります。
これは今の自分の状況にとても似ている部分がありました。全力で頑張っているのだけれど仕事が溢れる+遅れる、みたいな状況です。
本書では、工場の生産性を改善するための五つのステップを繰り返すことで、向上のみならず部門全体、引いては会社全体の効率を改善していく未来を示したところで話が終わります。
これは作者から私たちへの「あとは自分たちのところでやってみろ」のメッセージであると(勝手に)読み取りました。
企業の目標はなんだ?そして私たちは何をする?
物語は工場経営に悩んだ主人公が、学生時代の恩師に助言を求めるところから展開し始めるのですが、相談役からの初めの問いは「企業の目標は何か?」でした。
答えは「儲けること」です。もちろんSDGsのような世界・社会への貢献も企業のミッションの一つですが、「儲けがない」企業にそれらは難しいでしょうから納得感があります。
そして従業員の目標は「所属する企業が儲けるために貢献する」ことです。
ボトルネックを見つけ出せ!
物語の中心となるボトルネックは、工場の中の部品生産用の機械です。ボトルネックは全体の生産能力を3つの指標で捉えることで見つけることができます。
- "スループット"を増やす
- 成果を出せる速度。物語内では完成部品の数
- "作業経費"を減らす
- 主に人件費、作業時間
- "在庫コスト"を減らす
- 資材、中間部品、完成部品を保管するためのコスト
それぞれの指標を、求める方向へ増減させるために2つの事象を考慮します。
- 依存的事象
- 前後関係。部品Aを作るためには資材Bと部品Cが必要など
- 統計的事象
- ゆらぎ。とある部品作成は10minかかることもあれば、15minかかることもある
これらを考慮し、見つけ出したボトルネックを改善することで全体の効率改善が始まります。物語内では以下のようなサイクルを回しながら、時にドラマチックなイベントもおきつつ工場が黒字化していきます。
- ボトルネックを発見する
- そのボトルネックを最大活用できるように工夫する
- 専用のスタッフをアサイン
- ボトルネックを休ませないための工程調整
- ボトルネックの能力を拡張*1
- 改善のための工夫を組織に対して徹底(集中)する
- STEP1に戻り、新たなボトルネックを探す
その作業機械が本当にボトルネックだったのか?いいや違うね
工場を黒字化した主人公は、工場長からエリアマネージャへ昇格して複数の工場を見るポジションになります。そこで新ためて生産性のための対応方法を検討するのですが、ここが本当によくできていると感じました。
第1フェーズでは、1つの工場の生産性について2つの機械がボトルネックとして提示し、それらを中心に工夫を重ねることで改善がなされるストーリーでした。これは機械という”物”でわかりやすく、何をどうするかが具体的にイメージがしやすいものでした。
第2フェーズでは、3つの工場だけでなく、営業部門をはじめとした多くの関係部署もスコープであるため、ボトルネックを見つけること自体がとても困難であることが提示されます。
悩んだ主人公は第1フェーズを共に乗り越えた同僚と会議を重ね、次のような結論に至ります。ボトルネックは物体ではなく「制約条件」であると。制約条件は時に部品を生産するための作業機械であり、市場の需要であり、資材であり、状況によって変動します。
そうして見直されたステップが以下です。
- 制約条件を「見つける」
- 制約条件をどう「活用する」か決める
- 他の全てを2の条件に「従わせる」
- 制約条件の能力を「高める」
- ボトルネックが解消したら、1に戻る。ただし、惰性による制約条件は発生させてはならない(2の条件を惰性で続けてしまい、それが新たな制約条件となってしまう場合がある)
このステップを繰り返すことができれば、高い生産性を維持していくことができるはずです。物語内ではいくつかの打ち手によって改善を行うことができましたが、しかし別の新たな問題が起きることで、それだけではないと知らされます。
それで結局のところ何が大切なのだっけ?
本書は簡単なハッピーエンドでは終わりません。1つの工場の窮地を救い、エリアマネージャとなった主人公は最後まで次々に発生する問題に向き合い続けます。ここは著者から読者への投げかけだと感じました。以下に主人公のセリフを引用します。
「私たちの探し求めているのは一体なんなんだ?3つの簡単な質問に答えることができる簡単な能力じゃないのか?『何を変える』、『何に変える』それから『どうやって変える』かだ。.....」
そうです。結局のところ何かをより良くするためには、変えるべきところを見つけて、良い方向に変えれば良いのです。 私も本書を読んでいなければ ”それができればやってるよ” と流してしまったでしょうが、本書には多くの示唆やテクニックが紹介されています。それらは直接自分たちの環境に適用できるものではないかもしれませんが、多くのヒントになるでしょう。
余談
本書のエピソードに、ボーイスカウントのキャンプで子供たちとハイキングに行き、予定より遅い進行速度や伸びてしまう隊列などを通して主人公が閃きを得るシーンがあります。
私も先日、子供達の遠足に参加したこともあって、伸びてしまう隊列に苦笑いをした記憶が鮮明に蘇りとても面白く読みました。このエピソードがあったことで一気に読み切ったといっても過言ではありません。
何が自分の心を動かすかはわからないものですね。いやー良い本でした。
*1:物語内ではStep4として挙げられていますが、個人的には工夫の一つだと思うのでここへ