同僚氏が薦めてくれたので『他者と働く』 宇田川元一著を読了したので感想メモです。
- 最初にまとめっぽい感想
- はじめに
- 第一章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
- 第二章 ナラティブの溝を渡るための4つのプロセス
- 第三章 実践1. 総論賛成・各論反対の溝に挑む
- 第四章 実践2. 正論の届かない溝に挑む
- 第五章 実践3. 権力が生み出す溝に挑む
- 第六章 実践4. 対話を阻む5つの罠
- 第七章 ナラティブの限界の先にあるもの
- おわりに では著者の半生が語られる
- おわりに
最初にまとめっぽい感想
全体の印象は読みやすくてスッキリしていて、イラストも多く親切にわかりやすい良い本でした。
組織における個人の振る舞い方を、ナラティブ(物語としての個人の解釈の枠組み)が他者にも存在していることを明確に示し、そこに橋を渡して改善のサイクルを回すことの大切さを解いてくれる良書です。
言い換えると、幼い頃から言われてきた「相手の気持ちになって考えてみましょう」ではありますが、それをよりカテゴライズし・文章化し社会人に最適化していた印象があります。
はじめに
冒頭から重要かつ明確なカテゴライズの話が出てきます。 世の中の課題は大きく以下の2つに分解でき、本書では後者の”適応課題”についてフォーカスしていく説明があります。
- 技術的問題: 既存の技術で解決可能な問題、解決しやすい
- 適応課題: 複数の関係性の中で発生し、既存の方法でシュッと解決できない課題
関係性が生じるのは自分以外の「他者」がいるケースです。適応課題を解決するためには「対話」が必要です。 「対話」によって「新しい関係性を構築する」ことが重要で本書のテーマだと示唆されます。
第一章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
組織は複数の人間から構成され、役職や部門などの立場の違いから相手を道具扱いする「私とそれ」の関係に陥るケースがありますがそれでは対話することができず適応課題が生じます。相手の人格を認め「私とあなた」の関係性を築いていくことが必要です。
適応課題は以下の4つのタイプに分割されます。
- ギャップ型: 長期的には正しいが短期的には間違いが生じた状態(男女の雇用機会)
- 対立型: 互いに優先すべきものが対立している状況(営業部と技術部)
- 抑圧型: 偉い人の前で発言ができないような状況
- 回避型: 痛みを伴う本質的な課題から逃げるような状況
これらのタイプは複雑に絡みながら適応課題を構成します。
この流れから「ナラティブ」の言葉が紹介されます。ナラティブは多くの場所で登場する言葉ですが本書では以下のように定義されています。
ナラティブとは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のこと
別の言い方として、それぞれの立場で感じる「一般常識」であるとも説明があります。
ここから私は、適応課題は互いのナラティブの違いから生じるものと言っても良さそうに考えました。
第二章 ナラティブの溝を渡るための4つのプロセス
第一章でナラティブの違いから適応課題が発生する説明があり、第二章ではその違いをどのように解決していくのかの説明を4つのプロセスとして紹介があります。
その流れは「準備」->「観察」->「解釈」->「介入」です。それらは以下のように説明されており、文章だけでは抽象的な印象を受けるかもしれませんが、イラストと一緒に説明文を読んでいくと理解が進みやすいです。
- 準備「溝に気づく」
- 相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることをに気づく
- 観察「溝の向こうを眺める」
- 相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る
- 解釈「溝を渡り橋を設計する」
- 溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
- 介入「溝に橋を架ける」
- 実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く
また、4の介入のタイミングで本書冒頭で提示された「技術的課題」まで落とし込むことができており、具体的な行動を起こすことができます。
介入で終わるわけではありません。これらのプロセスはサイクルであるため、介入が次の観察につながっていきます。 以下はmermaidjsで起こしたプロセスの流れです。
準備は気づくことであるため、一度気付けば「観察・解釈・介入」のプロセスをひたすら回していくことが可能となります。
第三章 実践1. 総論賛成・各論反対の溝に挑む
この章はタイトルからして面白く読みました。「全体的には賛成なんですけど、この部分ではちょっと」みたいなケースは世の中にいくらでも存在しています。 その端々に適応課題が潜んでおり、4つのタイプの課題が複雑に絡み合います。
実践1では適応課題を横串に通すような「共通の目標」を設定したり、上記の介入から観察へのプロセスを何度も回したり、自分たちのナラティブへ相手を招き入れるなどの方法が紹介されています。
第四章 実践2. 正論の届かない溝に挑む
この章もあるあるなケースが紹介されていて、縦割り組織でよく見られる上司と部下における適応課題への対策が紹介されています。対策としては大きく3つあり「フラットになれる場の設定」や「自身が役職が下であることからの弱さを武器にするナラティブへの警告」や「つながりの再構築で孤独を解消する」ことが紹介されています
とくに良いと感じた部分が3つめの「つながりの再構築で孤独を解消する」部分で、忙しい上司が自身のタスクを整理してメンバーへやりたいタスクがあるか?と投げかける手法です。これはチームとしての負荷分散や俗人化への対策の他に、上司自身が忙しい旨を自己開示する点で見事に関係性の再構築が行われる良い取り組みと捉えました。
第五章 実践3. 権力が生み出す溝に挑む
この章はどちらかといえば経営者や部下を持つ上位層向けの内容になっています。権力にとらわれずに相手をものではなく人間として捉えようとか、仕事を依頼する相手がその仕事の主人公のナラティブを持てるように補佐しようなどが紹介されています。
逆にいえば部下という立場の自分としては、上司が自分をちゃんと人間としてみているかを意識すると良さそうですし、自分がタスクやプロジェクトの主人公として動けているかを考え働きかけていくと良い関係性が結べそうに思います。
第六章 実践4. 対話を阻む5つの罠
いくつかの実践を紹介した後、この章では「対話」について深く切り込まれています。 対話を行う際に問題となる主要なことがらが6つ紹介されています。
- 気づくと迎合になっている
- 相手への押し付けになっている
- 相手と馴れ合いになる
- 他の集団から孤立する
- 結果が出ずに徒労感に支配される
各説明面白く気づきのあるものですが、イチオシは「1. 気づくと迎合になっている」において紹介されていた以下の文章です。
孤独を大切にするためには、孤立してはならない
対話が組織のなかで誇り高く生きることも含み、迎合ではなく孤独に誇りを持って立ち振る舞う文脈で語られたものですが、字面がまず良いですし意味もスッと入ってきます。素晴らしい一節と感じました。
第七章 ナラティブの限界の先にあるもの
ここまで紹介されてきたナラティブの違いから生じる適応課題に対し、対話で介入していくことのおさらいのような形で、ガン患者と医者のナラティブの違いとともに医療という非常に専門性が必要なお医者さんの立場としてのナラティブの強さ、患者側の科学的根拠は少ないが切実なナラティブが対比として紹介され、正しいナラティブをぶつけるのでなく一旦脇に置くことでより対話が可能となることが示されています。
加えて、対話にフォーカスを改めて行い、対話が相手だけでなく自分を変化させ助ける行いであり、日々の違和感や痛みに対して向き合っていくことで、新しい連帯が生まれていくしそうせざるを得ない状況であることが述べられて結びとなっています。
おわりに では著者の半生が語られる
おわりとしては著者 宇田川さんの壮絶と言って良い生い立ちが語られます。大変な苦労の中で(このように簡単に表現することはおこがましいのですが)振り返りながら関係されてきた方々の立場や環境に想いを馳せ、あえて「一方的な和解」と表現された寛容と連帯を示されて本書は終わります。
『他者と働く』ための手段や考え方を本書から学び、今度読者である私たちがどのように振る舞っていけるのか、著者の半生から問いかけをうけ、背筋が伸びる思いで本を閉じました。
おわりに
以上、『他者と働く』 宇田川元一著の読書メモでした。大晦日のゆったりした空気の中で掃除やら子供やら多くのコンテキストスイッチを挟みながら雑に書ききりました。
ちょうど今月、はてなブログの年間更新が自動で行われてその金額を見て、来年はもっと雑にメモを置く場所として活用していこうと考えての第一歩です。
それでは良いお年を。